2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧

僕ら

寒い日、眠る前、僕らはいつも、しょうがを効かせたスープを飲んだ。眠る前、僕らはいつも、とても静かな曲を聴いた。僕らはいつも、息をひそめて話をした。僕らは僕らの叫びを聞いた。僕らはビスケットをたくさん食べた。お互いのことは何も知らない。僕ら…

車内は大人たちが押し合っており、わたしたちは握り合っていた掌を離してしまう。そのとたん、私は狂わんばかりに大人たちの体を突きのけ、弟を探す。大人の背中に鼻をめりこませながら、弟が、大きな眼だけで私を見ている。(色川武大「連笑」より)

・・・

われわれは十世紀にわたって、われわれを導く人びとに対して深々とお辞儀をする柔軟な態度をとってきた。・・・われわれは主人を持ち、彼らの移り気に譲歩し、それを喝采する習慣にすっかり慣れている。そうだからと言って、・・・彼らの前でこっそり笑うこ…

だが、話すこともできなければ釈き明かされもしないもの、世界の中で黙って消えていくもの、人類の歴史をしるした板に掻き傷のように刻みつけられた小さな線、このような行為やひと、夏のさなかにたったひとひら舞い落ちてきた、このような雪片、これらはい…

紙片

(おまえを紙片とともにかがり/窓をふみでて、/無心になりながら息つめたあと/あかるすぎると/わたくしは思って) (稲川方人「償われたものの伝記のために」より)