甘酒

「どの宿命のなかにも、ひとつの錯乱が存在している。こいつを整理することが大切だ」

日常の移動手段では物理的に不可能な待ち合わせ時間を設定したのは、滅多にない立ち読みの機会を確保するためだったようだ。遅れて着くと、いましがた読み込んだらしい岡本かの子についての解説が始まった。登場人物の話し言葉を再現しながら、それぞれが違う時刻を差す柱時計に囲まれて甘酒ののみ比べをし、裏道の木陰を辿った。

「ある意味では、錯乱が残酷さを解き放つのだし、錯乱は残酷さに似ていないこともないのだ。この錯乱はひとつの原動力と考えることができる」