いつだったかうちの三畳間に住みついていたAについて。Aはぶっきらぼうで口が悪い。手は土と油にまみれ傷だらけ。持ち物はぼろぼろになるまで使い込み、拾うか掘り出すかした用途不明の何かを磨いては形見のように慈しんでいる。早朝に出かけ夜遅く戻る。帰宅後はバイクの手入れや亀の世話やギターを爪弾いたり玄関で倒れたりしている。Aの実家ではAのおばあちゃんがうれしそうにビデオを見ていた。いつも見ているというそれはデスメタルだかハードコアだかのバンドのライブの映像で、Aがギターを弾きながらグァーだのブェーだの超低音の濁音で喚き続けている。Aは照れ、私は「けっ」と思う。不眠が続くと記憶の整理が昼日中に行われるのか、そんな場面がとりとめなく浮かんでくる。