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投函されない手紙を記すちょうどその頃、来翰あり。それは光そのもので、手にすると鈴の音がかすかに響く。子は桐箱の開閉に余念がない。「食えなんだら食うな」「死んだら死んだでええ」 むにゃむにゃ言っては笑う。
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1日。炎立ち薪、炭となる炉を囲み振る舞われし彩を子は次々に頬張りて後、畳と縁側を止めどなく往来す。薬尽きぬ瑠璃の瓶は白鳥となり飛び立つ。早足で向かうも、土蜘蛛すでに終了。
2日。乗換え3度の末迷い、走る消しゴムをいただく。着地点で子は人々の間を笑み高らかに廻る。空を仰ぎ地を転げ散々駆けた後、弦と木笛の音にまどろむ。
3日。空を映す水。低い位置の窓。子が走る。様々な壺を響かせてはのぞきこみ、双眼鏡とリモコンを操作して、焔色の円を3つ握りしめて離さない。黄医車をいただく。
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流れるように揺れる草、あらわれては消える気泡。そのささやかな知らせに聞き入って後、部屋の写真という写真(空や木や草や石や水)に目を凝らしている。かつて採集した、時が、子の中で動き出し、残響を増幅させる。いつか廻廊を昇りあらゆる時物を慈しめ。
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薄曇りの午後、物語が静かに進む。がらがらどんを脅すトロル。トロルを倒すがらがらどん。淡々と紡がれる言葉がうねりを持って迫り、こちらの何かを巻き込み、大きな力で包む。穏やかな声と吟味された言葉の凄みに慄える爽快なひととき。