境界線

アテネ・フランセで、佐藤真監督の 「SELF AND OTHERS」(2000年)


一本の樹が佇むシーンで始まり、終わる。牛腸茂雄氏(1946-1982)の写真作品、映像作品、肉声、手紙の朗読、筆跡、写真のモデルへのインタビュー(声のみで姿は出ない)、牛腸氏が見たであろう風景。作品中に繰り返される、かさかさした声。「オハヨウ コンニチハ コンバンハ」 これは、牛腸氏自宅の録音テープにのこされた、ご本人の声。損傷が著しく補正には苦労したそうだ。上映後、「この映画作品の手法を真似できるかどうか」という鈴木一誌氏(デザイナー)の問いに、菊池信之氏(この作品の録音担当)が答える。「作品は、世界との向き合い方そのものであり、それ以外ではない」 決まりごとを嫌悪し、思いがけない事象から発生する定義不能な何かに、鋭敏な感覚で反応してきた佐藤真監督は、自作を決して踏襲することなく、制作を続けておられたそうだ。