徹底して壊す。根本を疑う。淵を歩く。空中の塵を願う。I氏が監督した映像作品を、公開前に拝見する恩恵に預かる。朗読されるN氏の手紙と、移るさまざまな風景によって、起ちあがる不在。この不在は、特定の人物と場所を主題としたこの作品に限らず、I氏の作品に基音として流れている。アントン・ウェーベルンが編曲したJ.S.バッハ「リチェルカータ」を、ペーテル・エトヴェシュの指揮で聴く。砂浜で足をとられずに走るには、つま先だけを着地させるといい、ということを今更思い出す。「生は死の一部です」とラジオが言い、それから、エノケンの「私の青空」が流れる。