だが、話すこともできなければ釈き明かされもしないもの、世界の中で黙って消えていくもの、人類の歴史をしるした板に掻き傷のように刻みつけられた小さな線、このような行為やひと、夏のさなかにたったひとひら舞い落ちてきた、このような雪片、これらはいったい、現実なのか夢なのか、よいものか、無価値なものか、それとも悪いものか? (ロベルト・ムージル「トンカ」川村二郎訳より)