俺は我慢してるさ。我慢できねえこっても、我慢してるさ。これだけ我慢するな、容易なこってねえさ。
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誰も何もしてくれるわけじゃねえ。なあもかんも、自分ひとりで我慢しなきゃなんねえさ。我慢ということの中にゃ、なあもかんも入ってるさ。我慢てこた、スッパリと西瓜わったように、わかりやすいもんでねえさ。
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我慢しねえとなったら、簡単だわさ。我慢するのは、簡単なこっちゃねえ。他人の我慢は、自分の我慢にならねえだからな。何をどのくれえ我慢したらいいか、きまりってもんはねえだからな。何のために我慢しるか、わかんねえでもしるのが、我慢だからな。
(武田泰淳「ひかりごけ」より)