メモ(「闇の奥」より)

・・・僕は嘘が嫌いだ、大嫌いだ、思っても堪らない。なにも僕が他の人間より正直な人間だというわけではない、ただ僕は嘘が怖いのだ。・・・まるで腐ったものでも噛んだような、胸苦しい不快を感じるのだ。気質なのだろう、きっと。・・・


・・・僕らにとっては、地上は生活するところなのだ。さまざまな物も、音も、そして臭気も、じっと我慢しなければならない・・・一つの献身の力だ。もちろん自分自身に対してではない、ある暗い、背負い切れない仕事に対する献身なのだ。・・・


・・・彼の存在そのものが、嘘のようで、不可解で、まったくわからなかった。いわば解答不能の問題なのだ。どうして生きて来たものか、・・・どうしていま目の前で忽然と消え失せてしまわないのか、・・・「私は少しずつ少しずつ進んでいるうちに、」と彼は言った。「とうとう深入りしすぎて、今さら帰る途もわからなくなってしまったのです。だが、なに、そんなことは平気ですよ。・・・」・・・彼の要求はただ生きること、そしてあらゆる危険を冒し、あらゆる窮乏に堪えて前進すること、ただそれだけだったのだ。(コンラッド「闇の奥」中野好夫訳より)