メモ(無意味沙汰)

・・・しかし世の中には、まさに危険の神秘的な魅力にひかれる天性の人たちがいる。不可能なことを敢行した場合にはじめて、おのれの力の充実を感じ、向う見ずな冒険が唯一のふさわしい生存形式だといった、人生の一か八かのばくちうちがあるものである。太平無事の時代にはそういう人々は呼吸できない。そんな時には彼らにとっては人生はあまりに退屈なしろものになり、あらゆる行為はあまり窮屈臆病に思われる。彼らの正気の沙汰とも思われぬ大胆さにとっては、気違いじみた課題が必要なのであって、狂暴野性的な狂った目標が入用なのだ。無意味なこと、不可能なことをあえて試みるということが、彼らの最も深い情熱なのだ。・・・(シュテファン・ツワイクマリー・アントワネット」高橋禎二・秋山英夫訳より)