「名を尋ねることなかれ」という誓いを破ったばかりに、せっせと築き上げた理想の生活が崩れ去る。リヒャルト・ワーグナーローエングリン」をNHKホールにて(バイエルン国立歌劇場 日本公演/指揮 ケント・ナガノ/演出 リチャード・ジョーンズ)。弟殺しの罪を着せられたエルザ。その窮地を救ったのは、剥製の白鳥を抱え突如現れた騎士。そしてふたりは共に労働着でブロックを積み続ける。屋根が仰々しく取り付けられ祝福の山場を迎える。いざ生活が始まろうという時、エルザは禁じられた問いを発する。騎士は素性を明かし、家に火を放ち、剥製の白鳥を抱えて去る。2009年のミュンヘンオペラ祭で怒号が起こったというジョーンズの演出。深遠な構成や優雅な演奏を、「陶酔することなかれ」という彩りで覆い、観る者を大いに固まらせてくれた。