2008-01-01から1年間の記事一覧

13日

余生

(9日)ババシャツの聖地から遠くなったとはいえ、秘境にいるわけではないのだが、ジープや船や飛行機を乗り継いで都内まで出て来ているように思われている。せっかくなので中身が空の餃子を提案する。どちらにしても今こそ余生に違いない。終電には間に合った…

わさび

(8日)サントリーホールでアンネ=ゾフィ・ムター&トロンハイム・ソロイスツのバッハとヴィヴァルディ。信じ難い奇跡のような演奏。あまりのすごさに笑いを止められなくなる。 (9日) 15人展最終日。通りがかりの人が歌っていくことが度々あるという明…

メモ

(6日)ART TRACEで小品販売フェア展。レントゲンヴェルケでLandschaft IV(内海聖史/桑島秀樹/水野シゲユキ/山本基)。BASE GALLERYで伊庭靖子展。INAXで柴田鑑三展。藍画廊で宮本浩行展。AU HASARDで言水へリオ氏企画による横山飛鳥展。 (7日)MUSEE…

倉庫

空が暗く、鳥が静かな日は、屋外でラジオ体操をする人々がやけに輝いて見える。探検した倉庫には本ばかりが10万冊ほどあり、そのうちの1冊には、偉大な功績を遺した人物が、陰気な放蕩家と紹介されている。この地域は、行方不明になる人が多いようで、目…

ビラ

「強度を保つには気付かないという力が求められる」 港を少しだけ見る。マラルメを読んで、途端に具合が悪くなった人を思う。紫色の白い花、ディモルフォセカに再会。墓を守る猫を見守る。徹底的に感じの悪い素敵なお店。レバニラアイスで鉄分補給。ラジオか…

できることしたいことすべきことを、何の気負いもなく、とんとんとんと実践して、笑われながら笑っている、ものすごい素敵な人はそこら中にいて、例えば麦を踏んでいる。 「考えるな、思い煩うな、分別を持つな」 15人展搬入後、NATSUKAで金沢健一展、資生…

「そして、最後に、眠くなる、なぜか、意味のあるのは眠ることだと思うからだ」 自由学園明日館で篠田桃紅展。闇の手前の墨色。毅然とした灰色。軽やかで鋭い迫力。穏やかで深い気配。4回死にかけたことがあるという、95歳の篠田氏。そのときの状況を詳し…

ハイエース

池にドジョウを放し、憧れの白いハイエースで松本に向かう。ある何かが加工され名前と値をつけられる。その必然性なき行く末の羅列に、目のやりばをなくす。水の底そのものや、自然に発光しているものや、とても軽い立方体を見て少し楽になる。路地のやたら…

浮力

底なしの穴に対する躊躇を持ち合わせていない。よって浮力をつける。日差しのまぶしい午後、世田谷線を往復してフェルドマンにたどり着く。ブランコの軋む音が響くような不安とともにある心地よさ。「我々に必要なのは、強く、真っ直ぐで、明確で永遠に理解…

ツァラ

築野友衣子氏によるトリスタン・ツァラの研究発表を聞く。一瞬の生であるダダがダダダ、、、と増殖する菌のように感染する様が存分に伝わってきた。大平具彦氏曰わく、ツァラにとりつかれている築野氏。ツァラとの出会いは美大予備校時代とのこと。評価され…

質量

空と緑が見渡せるとこで鳥の声に囲まれて暮らしたいという願いは、気を失っている間に叶っていた。最小限の持ち物は悲しくなるほど大切なものばかりでこれ以上何も手にいれたくない。 「畜生、幸せなどない、人生はなるようになるし、ただひとつの幸いとは、…

脱出

遊工房Galleryで栗山斉展。窓ガラス越しの陽光や木々の緑とAM放送のノイズ。消滅の瞬間を定着した印画紙は、記された日時と暖かな色味の額装により、まるで肖像画のよう。遊工房StudioBで小林史子展。役割から解放された束の間の休みか、役割を与えられ出番…

だるまさん

「だるまさんがころんだ だるまさんがわらった」 「だるまさんのあたまは だるまさんをせめたて だるまさんのからだは だるまさんにあらがう」 「だるまさんしかしらぬ だるまさんのよろこび だるまさんしかしらぬ だるまさんのかなしみ」 「だるまさんがこ…

11月

わからない、わからない、と繰り返し言う人に、わたしもだ、と伝えると、その人は笑い出してこう言った。 ひとつ言えるのは、今が11月だということです、そのほかのことは、わからない、わからない、・・・ ふいに、坂道の途中でまわり続ける人を思い出す…

準備

器用に本を切り刻み、巣の準備をしている古書店のインコ。準備ばかりして、転ぶ前からすでに傷だらけだった人は、裏通りの説教をありがたがって、呆れるほど何度も頭を下げて、その後、説教とはまるで反対のことをした。 「ある安定した価値観に支えられた日…

準備

感情を無くした部族と2年間過ごした人に会いに行ったことがある。その部族が特殊なわけではなく、極限の状態に順応するために人間に備わっている能力だと思う、とおっしゃっていた。2歳の頃、とりあえず家を出た。今ここにいる、そのことが不思議でならず…

たんぽぽ

たんぽぽをたんぽぽとして意識できるうちに確認したくともたんぽぽはもうすでにたんぽぽではないのかもしれない。それでもたんぽぽがたんぽぽのままでいるような気がしてならない。あの席、ペソアっぽいね、と、奥のほう、光あたらぬ場所を指し坐りたがって…

修理屋

落ちて大破した。壊れたがっていたのだと思うことにした。修理屋の意外な言葉は、なつかしくもあった。大丈夫ですよ、直ります。歩く自分の姿を窓から眺めているが、窓から眺める自分の姿には気付かないまま、軽石ばかりの浜辺を歩きました、と、傷だらけの…

鶯がパルチザンと鳴いている。七色のどら焼きをいただきながらリハビリ。ランニングシャツと麦わら帽子が似合う風格となるまでの猶予は放棄され、それでも、洗濯物が干したままなので大丈夫、と言う人もあったが、10m先の著しく困憊した背中に追いつけな…

ビスケット

行く先々で電灯が点滅している。バンを見かけるたびに目を光らせていたあのハイエース評論家はどこに行ったのだろう。「彼らは歌いながら突然」5月の空に、アマリア・ロドリゲス。「壁に銃先でおかしないたずら書きをしてしまった」 作品が誰かに強い影響を…

レミング

作品を頼まれていた。他の人の目には触れることのない場所に掲げる、その人のためだけの、小さな、とても、静かな、とても。小学生の頃書いた物語を、レミングハウスの方にお会いして思い出す。内容はあるレミングの日常の風景を描写したもので、行進の直前…

靴下

松濤美術館で中西夏之新作展、GALERIE ANDOで二木直巳展、RAT HOLEでLEE FRIED LANDER「桜狩」、ART・ IN・GALLERYで新宅睦仁・樋口師寿「くたばれ東京藝大」展、NHKホールでメシアン「トゥランガリラ交響曲」、YUKARI ARTで南条嘉毅展、ZAIMで日本とセルビア…

ぬるま湯

席に満ちた人々がまなざす先には黄緑色の奏者がいる。黄緑色の奏者を見ている自分もまた席に満ちた人々である。ぬるま湯を飲んだくれてはひっくり返る。目の前の人が言うには、その人の目の前の人はものすごい悪人なのだそうだ。黒椅子が使用中止中のルネッ…

不知

留守が続きひと月遅れて入手した戸村浩氏のパンフレットから。 「未知とは決定的な存在であり、不知は我々の認識の血の騒ぎのためにある。不知は知るために存在するのではなく、既知の反語として存在するものでもない。未知はそれを認識することにより既知に…

焦点

グランドピアノの下からよたよた踏み出す。その脇を颯爽と駆け抜ける東方力丸氏。記号の解釈の表出は、何と相対させるかで全く別の物となる。善悪の判断もまた。一枚のガラスによって展開する反射と透過の景色。目を凝らせど焦点はずれ続ける。砂だらけの悲…

傾斜

渡した途端に返された一冊。曰わく、知っていることしか書かれていない。なるほど、「人肯當下休、便當下了」 目的も自覚もないえぐりあいの後、問いは高笑いではね返され、1、2、3、で、赤と青と緑。縮んだ時、傾斜はより強くなる。目を閉じることがまだ…

矛盾

写真美術館でマリオ・ジャコメッリ展。あらゆるものが孕む矛盾を、矛盾のまま静かに現前する手法。狭い見解で判断をくだし解決する、その単純さから遠く離れた心地よさ。工房親で田中隆史展。焼き物の作家さんによる平面での実験的な試み。吹き付けた色の痕…

洞窟

洞窟を掘った5人家族の話を聞いて頭がナンでいっぱいだ。鯛に入った砂糖をどさっと入れて、キワマリ荘のオーナーさんが庭の木の実のジャムを煮ている。日本語教室で泣かされ、あぶらだこの処方箋を受ける。たとえ話は拒否し続けた。雀が一心に、満開の枝先…

頭皮

冬眠中のツキノワグマを見に行く少し前、根こそぎにしていくチェーンソウの音をとても柔らかな頭皮で知らせてくれた。小さな小さなカップで何杯もいただいたコーヒーは毎日違う味で、電球を消し忘れては笑っていた。去年の唐突な伝言が今になって耳に届く。…